―『ときめきメモリアル』
（書かれたのは、１９９６年７月末。時事ネタ古すぎ。そこは時代の空気ということで……。なお、文中にてエンディングについて言及している箇所があることを、あらかじめご了承ください）
「先輩、どうでしたか？」
「安っぽい怪獣プロレス映画ではなく、しっかりしたディティールを持つ一級のエンターテインメントだな。新しいものを作ろうというスタッフの気概が感じられて気持ちがいい。」
「何の話ですか？」
「『ガメラ２』に決まってるだろ」
「そうじゃなくて、アレですよ。ぼくが聞きたいのは」
「ああ、アレか。よかったぞ。物語のつくりは前作が直球なら、今作は変化球、てとこだな。ただし、演出のホラー色は今作のほうが強い。小さい女の子が泣いてた」
「あの、先輩」
「ヒロインも充実してるぞ。ロリコンの人にはナナコ。気が強い美少女が好きならキョウコだ」
「……そうじゃなくて」
「一気にラストまで運んでくれる手腕はあいかわらずお見事というしかないな……ん、どうした？」
「それは『学校の怪談２』でしょ。ぼくが聞きたいのはサターン版の『ときメモ』についてですよ」
「先にそう言えよ」
「……」
「個人的に多少の不満はあるが、総合的な完成度は極めて高い」
「『ときメモ』完全版ですか」
「その言い方は語弊があるなあ。今までの『ときメモ』が未完成というわけじゃないんだから。たしかに自分から告白できることで、エンディングのニュアンスは変わったけど」
「それがサターン版最大の売りですね」
「うん、だけどサターン版の長所はそれだけじゃない」
「具体的にどの辺が変わったんですか」
「サターン版の長所は四つある。ひとつめは『効果音』だ。初詣に行けば柏手を打つ音が入るし、遊園地では人のざわめきが聞こえる。臨場感を増す上で、非常に効果的な演出だな」
「ふたつめの長所は？」
「コマンドを入力したときの処理がスピードアップして、プレイのテンポが早くなった。みっつめはグラフィックのパワーアップだ」
「どれもゲームの根幹とはあまり関係ないですね。そういう細かいところのつくりが大切なのはわかりますけど」
「ちょっとした改良でプレイヤーのストレスが減り、感情移入が増すからな。こういった細かいところへの気配りは重要だ」
「自分から告白できる点については？」
「それがよっつめの長所だ。自分から告白できることでエンディングに幅が生まれて、ゲームの深みを増している。自分から告白できることの意義はね。本命以外の女の子と結ばれるという『不本意な』エンディングをさけられることだよ。つまり、本命以外の人から手紙をもらった場合の救済策になるんだ。それに、誰からも手紙をもらえなかった場合でも意中の人にとりあえず思いを伝えることができるのは、すっきりする。要するに、プレイヤーの意志をエンディングに反映させることができるんだ」
「自由度の高いゲームですね」
「それこそが『ときメモ』最大の売りだよ」
「最初に『多少の不満はある』と言いましたよね。サターン版にまずい点があるんですか」
「あくまで個人的な感想だが、不満は二点ばかりある。ひとつは『音』」
「ハードの性能差ですね」
「ＰＳの方がサターンより音に関しては上だからな。ちなみに、サターン版ではＢＧＭの音量がＰＳ版より小さめに設定されているようだ。これは素人考えだが、音楽の存在感を弱くして、効果音的な扱いをしているんじゃないかな」
「もうひとつは？」
「スタッフロールだ」
「告白シーンの後に、エンディングテーマと一緒に流れるアレですね」
「サターン版は画面の左にスタッフ、キャストの名前、右に女の子の冬の制服姿が表示されるという地味なものだ」
「それがまずいんですか」
「音楽と画面のシンクロだよ。サターン版が悪いわけじゃないけど、ＰＳ版の方が優れていると思う」
「ＰＳ版は……」
「画面の左から右へと流れるように、同一人物のみっつのグラフィックが表示される。それぞれ冬の制服、秋の私服、パーティールックだ。絵的にとても華やかだし、動きがあって面白いと思う。エンディングテーマの『二人の時』はバラードじゃないんだから、サターン版の地味な画面は曲と合ってないように感じるんだ」
「好みの問題じゃないですか」
「まったくその通り。単なる好み、主観による判断に過ぎない。もう少し言わせてもらうと、ＰＳ版のスタッフロールのすごさは、これだけじゃないんだ。みっつのグラフィックが画面のどの位置に表示されるかは、毎回微妙に違うんだよ。左から冬の制服、秋の私服、パーティールックという順番は同じだけど、それぞれのＹ座標が違うと言えばいいかな。毎回、同じ画面が流れるわけじゃないんだ。さらに、サターン版では最後にしか本命の女の子が表示されないけど、ＰＳ版では最初と最後の２回、本命が表示される。つまり、本命の特別扱い度が高い」
「それに意味があるんですか」
「大きな違いだ。サターン版では誰が本命でも常に詩織からスタッフロールが始まるのに対して、ＰＳ版では本命の女の子から始まる。『ときメモ』はマルチエンディングが売りなんだから、この差は大きいと思うよ。プレイから独立してエンディングが存在するんじゃなくて、プレイによってエンディングに差異があった方がマルチエンディング性が増すということだね」
「なるほどねえ……。で、結論は？」
「最初に言っただろ。総合的な完成度は高いって。ファンなら間違いなく買いだね。サターン版に批判的なことも言ったけど、あくまで好みの問題だ。『ときメモ』は、いいゲームだよ。ハードが増えたことは素直に喜ばなくちゃ」
「そう言えば、Ｗｉｎｄｏｗｓ版もでるんですよね」
「ぜひ、英語版をだして世界各国で発売してほしい」
「そ、それは、ちょっと……」
「何を言うか。ゲームこそ世界に誇れる日本の最先端文化だ。もっとも、『ときメモ』は海外ではヒットしないだろうが」
「どうしてですか？」
「『お約束』の面白さは、文化が違うと伝わらないんだよ。『お約束』だけが『ときメモ』の面白さではないけど、重要な要素であることはたしかだ」
「そういうものですか……先輩、そろそろメシ食いに行きましょう。」
「うむ。おまえのおごりな。聴講料だ」
「誰かに聞いてもらいたくて、ウズウズしていたくせに……」
「なんか言ったか？」
「いいえ、なんにも。さあ、行きましょう」
ＥＮＤ
『ときめきメモリアル』 コナミ プレイステーション サターン