―『星の瞳のシルエット』
少女漫画を読もう。
あるジャンルについて言及するとき、エポックメーキングな作品や前衛的な作品ばかり論じられ、ジャンルを根底から支える普通の作品は無視されることがある。しかし、まず最初に読まれるべきは基本文献なのだ。少女漫画なら、もちろん『りぼん』だ。では、今の『りぼん』のエース級の作品を読めばいいのか？ 間違ってはいない。だけど、それだけじゃ足りない。そこに至るまでの過程をおさえておいた方がもっと楽しくなる。
＜乙女ちっく派＞というジャンルがある。代表的な作家は陸奥Ａ子、田渕由美子、太刀掛秀子。今日の少女漫画の主流となる現実の日本を舞台にごく普通の少女が等身大の生活を送るというスタイルのパイオニアとなった作品群だ。紛れもない「古典」である。アカデミックな研究をするつもりなら、ジャンル全体を体系的・網羅的に概観する必要上、読むべきであろう。これら＜乙女ちっく派＞の余波を受けて、その後『りぼん』のエースとして確固たる地位を築いたのが『星の瞳のシルエット』だ。連載時は超メジャー作品だった。なにしろキャッチフレーズが「２５０万乙女の恋のバイブル」である。断言する。問答無用のおすすめである。
少女漫画を読もう。
『星の瞳のシルエット』を読もう。
シチュエーションは超古典。
幼なじみとの再会。親友との三角関係。もちろん主人公はパンをくわえて学校へ向かう。曲がり角で人にぶつかる。大切なものを落とす。男の子たちは屋上で殴り合う。完璧である。少女漫画の＜キング・オブ・キングス＞にふさわしい。王道中の王道中の王道。正統派のテーマを真正面から描き切った大傑作。今ではこういうストレートな少女漫画は描かれないし、描けない。だからこそ価値がある。
物語の早い時期に設定されたコンフリクト（葛藤）を最後の最後までひっぱっているため、ストーリーがぶれない。一気に読める。全１０巻の物語を通して、主人公の目的はたったひとつである。それは最初から最後まで変わらない。キーアイテムとなる「星のかけら」やラジオのリクエスト番組などの道具立てもお見事。
少女漫画が少女の夢であり、力となった時代の息吹きを感じさせる名作。そして多分、今でも、そういう役割を漫画は求められているのだ。
少女漫画を読もう。
『星の瞳のシルエット』を読もう。
そこから、何かが始まるはずだ。
柊あおい 『星の瞳のシルエット』全１０巻 集英社りぼんマスコットコミックス
文庫版（全６巻）もあり