―『ひみつの階段』
学園ものというのは、とても不思議なジャンルだ。実際の学校と同じかというと断じて違う。かといって全く違うかといえば、それも違う。学園もので描かれる出来事や雰囲気は現実の学校生活にもあるものだけど、どこかちょっとずつズレている。
高校に入る前は、高校生というのは大人に見えて何でもできるような気がした。高校生活に憧れた。終わってみれば、思い出したくないことのほうが多い忌むべき３年間だったような気がする。それでも、ぼくは学園ものを愛している。一度も通ったことのない幻の学園生活に憧れる。そういうものがあったんじゃないかと夢想する。
『ひみつの階段』で描かれるのは、まさに「幻の学園生活」そのものである。原典がわからないほどおなじみになってしまった古典的少女小説風のプロットが、女子高の寄宿舎を舞台に繰り広げられる。
お茶会、きもだめし、学校祭の準備に放課後の図書室……。
いつか、どこかで読んだような気がする懐かしきエピソードたち。初めて読んだはずなのに、以前からよく知っていたような気持ちにさせられる魔法の時間。
ドラマチックな事件は何も起こらない。平凡な日常の愛しさを描きつつ、淡々とした毎日の中に世界や人生の真実をちらりとのぞかせる。ファンタジックな出来事にリアリティを付与して、物語の中に容易に回収することができるのが漫画の強みだ。不思議なことが起こっても、そういうこともあるよね、と納得させられてしまう。
登場人物が『指輪物語』を読んでいたり、台詞の中に『小公女』や『ハイジ』を引用したりするくすぐりも楽しい。
いい漫画です。