９月
９月２日（土）
『悪の対話術』（福田和也 講談社現代新書）読了。
会話の技法書と思いきや、実は人生論。
「（前略）『私が対話すべき相手はどこにいるのか？』という疑問にこそ、対話のモティベーションと人生のモティベーションが重なり、ついには逆転する地点が垣間見える（後略）」２０８ページ。
つまり、自分が対話するのにふさわしい相手を探さなければならない。とすると、生きていくために対話する相手をみつけるのか、対話する相手を探すために生きているのかわからなくなる。
ここに対話の本質的問題がひそんでいるような気がする。社会の中で生きていく以上、人生イコール対話なのではなかろうか？
９月３日（日）
『空腹の技法』（ポール・オースター 新潮社）、『ぼくらは虚空に夜を視る』（上遠野浩平 徳間デュアル文庫）、『トッペンカムデンへようこそ １巻』（征矢友花 プリンセス・コミックス）、『男の隠れ家』を買う。
『男の隠れ家』は特集が「書斎を造る」。このテのテーマはツボである。他人の本棚を見るのが無性に好きなのだ。
仕事は雑事に追われ、本題の方が遅々として進まず。あせっている。
９月４日（月）
２０日目。
連続出社記録更新中。
休日出勤なので「本来の仕事」ができると思いきや、来客があり、中断する。
ふぇ〜ん。
早目に切り上げ、シネスイッチへ。
「あの子を探して」の最終上映に間に合う。観客は５人。
ドキュメンタリー的手法をつかうことのあざとさ（特にラスト）や、「メディアが貧困を解決する」図式を批判することもできるが、そういうヒネた見方はやめましょう。
優れた映像作品が常にそうであるように、この映画もまた表層的なストーリーの奥につかみどころのない何かが見え隠れしている。表面に現れるストーリーだけ観れば「文部省的」な教育映画だが、その深奥に何かがかすかに揺れ動いている。それが何かを特定することはできないが、それを見逃していてはこの映画の一面しか語り得ないような気がする。
日記を読むシーンが白眉。
９月７日（木）
連続出社２３日目。
表面的には元気だが、体と精神の奥の方にしこりのような疲れを感じる。
仕事はいよいよ佳境に。わからないことだらけの中を手探りで突き進む。
夜、なにわで『ウンベルト・エーコの文体練習』（ウンベルト・エーコ 新潮文庫）を買ってから、サッポロファクトリーで「さくや妖怪伝」。
見得をたっぷり切ったアクションがオタク心をくすぐる。クライマックスでは男の子が頑張るあたり、活劇としてストロングスタイルであることの証明。海外配給を見据えているらしいので、ぜひ「神秘の国ジャパン」のイメージを広めるのにひと役かってほしい（イヤミではない）。
９月８日（金）
通常の仕事と佳境に入った方の仕事が重なり、立て込んでいる。結局、できることしかできないのだと自分に言い聞かせ、ひとつひとつ片付けていく。
帰りがてら、なにわで『魔剣天翔』（森博嗣 講談社ノベルス）、近所のコンビニで『ダ・ヴィンチ』を買う。帰宅後、簡単な書類を２つ作成してから、月報を書く。
９月９日（土）
『新・戦争学』（文春新書）読了。
ところどころに挿入される太字の格言がよい。
「先入観は転機を見失わせるが、先入観を捨てられる人は天才」
「指揮官にエリートを選ぶな！ 敗北の味を知っている人材を選べ！」
「二者択一の決断ができない指揮官は、折衷案を採用して失敗する」
帰宅後も仕事。もはや、当たり前。
９月１０日（日）
『超読書体験 上・下』（コリン・ウィルソン 学研M文庫）買う。
明日も出社。休みだったような気がしないでもないけど、とにかく出社。えーと、連続何日目だ？
肉体よりも精神の疲れの方がひどい。磨耗した精神がむきだしになっているような感じがする。
９月１４日（木）
連続出社３０日達成。
ここまで来ると、どこまでいけるか試してみたいという破滅的欲望に駆られる。
雑事が入り、仕事進まず。五輪サッカーを見るため、続きは家でやることにして資料を全て持ち帰る。
帰宅後、TVをつけると、既に前半が１０分ぐらい過ぎていた。
南アフリカは予想どうりタフな相手。１対１では、なかなか止められない。ただし、チームとしての完成度は日本の方が上。とは言え、初戦のプレッシャーか、南アフリカのスピードが怖いのか、中盤が下がり気味で前線への飛び出しが遅れ、スペースを丁寧に使った本来の攻めが見られない。何度かゴールチャンスを潰している内に、カウンターから先制を許してしまう。ここであわてないのが、このチームが「史上最強」と言われる所以。前半ロスタイムに中村のFKを高原がピンポイントで合わせて追いつくと、後半、ノンルックで繰り出された中田のスルーパスを再び高原が決めて逆転。これが決勝点となった。中田はミドルパスの精度が悪く調子はいまひとつといった感じだったが、最後には結果を出すあたりさすが。
試合を見届けてから、近所のラーメン屋で夕食。あんかけ焼きそばと春巻。
その後はずっと報告書作成。
９月１７日（日）
かかりっきりになっていた大きな仕事にようやく区切りがついた。すごく良いわけではないが、結構良いという結果。
というわけで、明日は休日。
連続出社は３３日でストップ。この記録が塗り替えられることは当分ないであろう（あってたまるか！）。
五輪サッカーは予想外の展開を見せているようだが、ここは先日読んだ『新・戦争学』から引用させていただく。
「戦争の目的は戦況とともにダイナミックに変化する」
９月１８日（月）
「クリクリのいた夏」観る。
奔放なようでいて、実は巧緻な脚本。
雰囲気が「紅の豚」みたいと思ったんだけど、これこそが正統派のフランス映画で「紅」がフランス映画（イタリア映画？）的なものにオマージュをささげているのだろう。
９月２０日（水）
仕事帰り、号外が出ていなかったので駄目だったかと思ったら、予選リーグ突破してるじゃない。
ああっスロバキアさまっ。
東欧のサッカーは結構好き。平均的に高いテクニックとチーム全体に浸透した戦術に支えられた完成度の高いサッカー。その中に「天才」が１人いると、俄然面白いチームへと生まれ変わる。ルーマニアのハジ、ユーゴスラビアのストイコビッチ……。
ありがとう、スロバキア。君たちの雄姿をぼくらは決して忘れない。
９月２２日（金）
『果しなき旅路』（ゼナ・ヘンダースン ハヤカワ文庫）、『おもいでエマノン』（梶尾真治 徳間デュアル文庫）、『西の善き魔女 外伝２』（荻原規子 中公C★NOVELSファンタジア）、『カルチュラル・スタディーズ入門』（上野俊哉/毛利嘉孝 ちくま新書）、『アメリカ文学史のキーワード』（巽孝之 講談社現代新書）、『ノンデザイナーズ・ウェッブブック』（ロビン・ウイリアムズ/ジョン・タレット 毎日コミュニケーションズ）買う。
夏の疲れが出てきた感じ。体に力が入らない。
９月２３日（土）
リアルタイムで見てない分、ショックが大きくない。
日本人は団体種目が苦手だねえ。
つくづく、戦闘は強いけど戦争は弱い民族である。
９月２４日（日）
大きい仕事は片付いたけど、その間、滞っていた通常の仕事が山のようになっている。デスクの上では郵便物とファックスと未決の書類が小高い丘をなして、一週間が１０日あっても足りないようなかんじ。
仕事帰り、松竹遊楽の「キッド」の最終回に飛び込む。
これって、ようするに「クリスマス・キャロル」である。人生は長期戦なのだ。ラストカットが象徴的。みんな玄関を探している。極めてアメリカ的な幸せをよしとしているけど、そこはまあディズニーですから。
明日は休み。
９月２５日（月）
午前中、雑事を済ませてから、午後は報告書の作成。
夜、『アフタヌーン』を読む。黒田硫黄の新連載「茄子」がよい。物語の定型を小気味良く裏切っていく相変わらずの黒田節。やっぱりすごいです。この人。
９月２６日（火）
巨人の優勝について。
もしも、すべての野球選手が巨人に入りたいと思っているとしたら、それは文化としてのプロ野球のレベルの低さを物語る。たとえば、ある集団に様々な色の服を提供したとき、全員が同じ色を選んだとしたら、その集団のファッションセンスは良いとは言えないのではあるまいか。
今後も、「金と権力」で「優秀な選手」をかき集め、巨人が勝ち続けることができたなら、いずれプロ野球は文化的衰退を迎えるであろう。その頃にはリーグがひとつになり、チームもふたつしか必要なくなる。すなわち、「巨人軍」と「反巨人軍」である。
『帝都探偵物語 水妖の青き唄を聴け』（赤城毅 中公C★NOVELSファンタジア）買う。
夜、雑文の下書きをする。これも一応、仕事。
９月２７日（水）
『司星者セイン』（ベニー松山 集英社スーパーファンタジー文庫）、『魔方陣グルグル １３巻』（衛藤ヒロユキ エニックスガンガンコミックス）、『成恵の世界 ２巻』（丸川トモヒロ 角川コミックス・エース）、『SFマガジン』買う。ベニー松山の新作を読める日が来るとは思わなかった。
夜、古い友人に会う。
東南アジア料理を食しつつ、近況報告など。
９月２８日（木）
机、椅子、照明。この三つを「書斎の三種の神器」と呼ぶ（いま決めた）。
このうちの椅子がグラグラ揺れるようになってしまった。ガスシリンダーの固定が甘くなっている。これに座って、ダンベルフライをやったのがまずかったのだろうか？ 事務用椅子でウェイトトレーニングはするべきではない。というわけで、新しい椅子を買いにでかけたが、気に入ったものがみつからない。どれも座り心地が悪すぎる。今日のところはあきらめて、これから業務用の椅子を扱ってる店を探すことにする。「椅子とベッドは安物は買うな！」というのが我が家の家訓なのだ（うそ）。
なんとなくスガイビルに行ったらタイミングがぴったりだったので、「マルコヴィッチの穴」を観る。
噂に違わぬイカれた脚本。破天荒な展開がラストに向けて収束していくさまが圧巻。すごく哲学的で深遠なようでありながら、ただバカなだけにもみえてしまう形容のしにくい映画。
９月２９日（金）
『遥かなる地平 １、２』（ロバート・シルヴァーバーグ編 ハヤカワ文庫）、『グミチョコレートパイン チョコ編』（大槻ケンヂ 角川文庫）買う。
仕事、進まず。
休日出勤の日々がまたはじまるのか……。ふにゅう〜。
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