きみの部屋に目覚まし時計はあるだろうか？
あるね。ところで、いまは何時頃だろう？ 朝、昼、それとも夜？ 午後７時以降が望ましいのだが……もし、それ以前だったら、７時が過ぎるまで待ってほしい。……夜の７時をまわった。目覚まし時計を手に取って、７時にアラームをセットしよう。机の上に置いて。
目覚ましのベルが鳴る時。それが、君の生命が尽きる時だ。人生の残り時間が決まった。
さあ、何をしようか？
どうしても、やらなければならないことはあるだろうか？
生きているうちに、これだけはやらなければならないという何かが、あるだろうか？
もしも無いとしたら、それでもこの先、生き続ける意味があるだろうか？
やらなければならない何かが、たとえ無かったとしても生き続ける意味はあると答えたい。
人生は「死なないこと」が勝利条件のゲームだ。だから、生きている限り勝ち続けている。自殺しないだけで精一杯。そんな毎日でいい。自殺する理由がないことを幸せと呼ぶのだから。
自ら死を選ぶ可能性に人間はたえずさらされている。その中で自殺しない理由をみつけること。
自殺を選び取る可能性が完璧に消去された世界。それを「完全自殺回避圏」と名づけよう。そこに至ろうとする過程こそが生きていることそのものなのだ。たどり着くことは決してできないのかもしれない。原理的に到達不可能なユートピアを夢想しているだけかもしれない。だけど、そこを目指している限り、生き続けていられる。それで充分だと思う。
生の恐怖を感じるのは、おかしいことじゃない。生きることは怖いのだ。死は生の恐怖からの解放である。と、同時に生のかけがえのなさとの断絶でもある。生のかけがえのなさが生の恐怖に勝っている間は、生きていられる。人生のゲームに勝ち続けていられる。
生のかけがえのなさとは交換不可能性である。
僕があなたではないのと同様にあなたも決して僕にはなりえない。
僕もあなたも宇宙の始まりから終わるその時まで全ての時系列を通じて、いま、この瞬間ここにいる唯一無二の存在なのだ。
とても不思議なことだと思わないかい？
午前７時。目覚ましが鳴る。
今日もまだ生きている。