◆2006/11/16 更新◆
９月５日（火）
努力は結果を得るためだけにするものではない。
もし努力が結果のためだけのものならば、結果のともなわなかった努力の全ては徒労であったことになってしまう。
努力はそれ自体に意味がある。
９月７日（木）
テアトル新宿で『時をかける少女』。
客の入りは９割以上。平日の午後で、この混み具合はすごい。
キッズアニメでもオタク向けでもない、正統派の長編アニメ映画。
日本のアニメは死んでいなかった。
「時間旅行もの」である本作において、主人公には何度も「やり直し」のチャンスが与えられるが、「やり直し」たから上手くいくのではなく、大切なことに気づくことで主人公は前進する。「タイムリープ」という物語上の仕掛けによってテーマが浮かび上がる。
失ってから自分が持っていたものに気づくことがある。
時をかけた先に主人公が大切なものを見つけたとき、観客自身もまた何かを見つける。
普遍的なテーマに正面から挑んで、描き切った青春映画。まごうことなき傑作。必見。
声優の稚拙な演技はストーリーが動き始めると全く気にならなくなる。
背景がいい。真夏のグランド、放課後の校舎、夕暮れの川辺……夏の空気感の描写が素晴らしい。美術を務めたのは山本二三（『ラピュタ』、『火垂るの墓』、『もののけ姫』の美術監督）。
脚本は奥寺佐渡子（『学校の階段』）。
今年の裏年間ベスト候補（一般には話題にならなかったけど、実際に観た人の評価は高い）。
９月１１日（月）
新宿グランドオデヲン座にて『グエムル 漢江の怪物』。
感情移入しにくい主人公のキャラクターはどうかと思う。
怪物にさらわれた娘を演じたコ・アソンの表情が素晴らしい。
ひとつの表情、ひとつの眼差しが圧倒的な緊張感を生み、作品世界の根底を支えている。
９月１４日（木）
新宿紀伊國屋ホールにて『獏のゆりかご』（シス・カンパニー公演／作・演出 青木豪）。
さびれた動物園のある一日。
その日、動物園ではバクのユメゾーの誕生日を祝うイベントの準備が進められていたが……。
少しずつキャラクターの境遇や内面が描写されていく脚本が見事。ものすごい不幸はないけど、圧倒的に幸せなわけでもない普通の人々の普通の人生の局面を描き出す。
芝居のテイストは基本的にギャグ。コメディな出来事を積み重ねながら、解放感のあるラストに到達する。中年独身男の副園長菅原（高橋克実）のダメっぷりが痛すぎます。
９月１５日（金）
久し振りの晴天。
日比谷シャンテシネ１で『キンキーブーツ』を観る。
平日の午前の回にも関わらず、チケット売場には２０人位の列。年齢層は高い。
ストーリーはいわゆる「フル・モンティパターン」→うだつのあがらない連中が「常識外」の手段で一発逆転を狙う。
「がんばれ労働者！」みたいな。
９月２１日（木）
日比谷スカラ座１で『Ｘ−ＭＥＮ ファイナルディシジョン』。
情け容赦ない○○に呆然。
テーマは“力のコントロール”。
９月２２日（金）
レンタルＤＶＤで『イン・ハー・シューズ』を観る。
傑作。観る価値がある。
９月２５日（月）
丸の内プラゼールにて『イルマーレ』。
韓国版から設定だけ借りてきて、オリジナルよりも整合性のある（腑に落ちる）脚本にするのかと思ったら、相変わらず辻褄が合ってない。
シチュエーションはロマンチックなのだから、後は展開しだい。もう１回、誰かリメイクしませんか？
９月２７日（水）
「大金が手に入る」とか「大金が必要だ」みたいな金銭の獲得または欠落を主軸にしたプロットはハリウッドでは定番だが、邦画では稀である。
国民性の違いがよく出ている。
（ほとんどの）問題はお金で解決できると考えているアメリカ人に対して、日本人はお金以外の手段で（ほとんどの）問題を解決できると思っている。
９月２８日（木）
新宿シネマスクエアとうきゅうで『フラガール』。
観客の年齢層がとても高い。おじいさん、おばあさんのペアが目に付く。
先々週観た『キンキーブーツ』と同じ「フル・モンティパターン」。定型のストーリーではあるんだけど、コメディのパターンのひとつとして世界的な流行（？）傾向が見られる。
演出は重たいが、過度に深刻になるぎりぎりのところで踏みとどまっていて、実話のシリアスさとコメディとしてのリアリティのバランスが保たれている快作。
主演松雪泰子ということになっているけど、物語の視点は炭鉱娘の一人（蒼井優）にある。
とにかく蒼井優がすごい。
フラ（ダンス）という自己実現の手段を得ることで、「自分」を確立していく。
冒頭、ボタ山（？）にしゃがみ込んでいる田舎娘とクライマックスのステージでキラキラと踊る少女が同一人物とは思えないほど変貌しているんだけど、まぎれもない同一人物であるという離れ業。自我の獲得と成長。
観てよかったと思える映画。
蒼井優の輝きぶりはただ者ではない。
９月２９日（金）
『浮世でランチ』（山崎ナオコーラ著 河出書房新社）読了。
つながっていないつもりでもつながっている人間と人間の関係を、勤め人なら誰もが経験する「ランチを誰と食べるか？ （あるいは誰とも食べないか？）」という「決断」に照射して描く……んだけど、実はランチのシーン自体はあんまりない。
すごく好きでもすごく嫌いでもない人たちに囲まれて生きている「わたしたち」の世界。
９月３０日（土）
人はみな、歴史の終わりに生きている。
原理的に先が見えない状況に置かれている。
その不安から逃れるために宗教や物語が採用される。