◆2006/09/15 更新◆
８月３日（木）
シアターＶアカサカで『ドアをあけると…』（作 アラン・エイクボーン／演出 板垣恭一）。
ある夜のホテルの一室を舞台に、女性たちの人生のやり直しを描く。
巧みな脚本に引き込まれる。
主演の岡本麻弥は『ナデシコ』の遥ミナト役。
１０年の時を経て、こんな形で見ることになるとは。
８月１０日（木）
渋谷ユーロスペース１で『レイヤー・ケーキ』。
音楽、ファッション、カメラワークのセンスが抜群。
主演は６代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグ。知的で落ち着きがあってクール。ショーン・コネリーのような色気はないけど、ボンド役として悪くない気がする。年末公開の『００７／カジノ・ロワイヤル』が楽しみになった。
８月１４日（月）
新宿ミラノ１で『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』。
映画館に列をなして人が入っていくのを久し振りに見た。
パンフレットを買うために並んだのは『ガメラ２』以来。
幅広い年齢層にアピールできたのがヒットの要因だろう。
プロットは古典的（“海賊もの”なんてほとんど死語）、キャラクターは現代的。
老若男女がそれぞれの見所をもって楽しめる。
ますます影が薄くなったウィル君（オーランド・ブルーム）は主役の座をジャック・スパロウ（ジョニー・デップ）に完全に奪われている。結果として主人公（ジャック）が「食えない奴」のせいで、感情移入しにくい脚本になってしまった（何を考えているかわからない主人公は感情移入しにくい）。ハン・ソロが主人公の『スター・ウォーズ』、シャアが主人公の『ガンダム』を想像してみよう。どんなに格好よくて魅力にあふれたキャラクターでも、彼らはバイ・プレイヤーなのだ。
わかりにくい主人公というのは現代的と云えなくもないが、冒険活劇としてのワクワク感は薄れ、観客が物語を「眺めている」感覚におちいる原因となってるように思う（作品世界に引きずり込まれない）。
批判めいたことを書いたけど、次作ももちろん観に行きます。ええ、行きますとも。
８月２５日（金）
新宿武蔵野館１で『ユナイテッド９３』。
傑作。１０年先に残る映画。
国家間のパワーゲームとイデオロギー闘争……その渦中に投げ込まれた個人の姿。
徹底的に「事実」だけを積み重ねていく抑制のきいた演出。政治的なメッセージ性を発することをストイックなまでに回避しようとしている。無論、機内で起こったことがどこまで「真実」に接近しているのかはわからない。わからないことをわからないとして避けるのではなく、描こうとした監督の姿勢を評価すべき。どうしたって政治性は帯びてしまう。それを承知の上であくまで「個人の戦い」の描写に留まろうとした監督はえらい。
終盤になるにつれて、観客に一体感が生まれてくる。同じ時間を過ごしている感覚。ここではないどこかに観客全員が連れて行かれる感覚。奇跡の瞬間。
８月２７日（日）
正午起床。
久し振りのジム。
夜、テアトル新宿で『時をかける少女』を観ようとしたら、上映４０分前で既に立ち見のため断念。
丸ノ内線で銀座へ向かうが、シャンテシネの『キンキーブーツ』はチケット完売。
このまま帰ろうかと思ったけど、日劇で『ゲド戦記』がかかっていることに気づいて、（近隣の劇場の『日本沈没』、『ＵＤＯＮ』との３択の結果）急遽観ることにする。
……。
全くストーリーになっていない。
最初から最後まで物語の形をなしていない。
延々とシーンがつながっているだけ。
以下、結末に触れる。ただし、ネタばれしたところで困ることはないと思うので、未見の方も気にせず読み続けてよし。
プロット上の欠陥について具体的に指摘する。
クモ（敵役）がハイタカ（ゲド）、テルー（ハイタカの古い知り合い）を殺そうとする目的がわからない。クモは不老不死の方法を見つけたのなら、勝手に不老不死になればいい。わざわざハイタカを呼び出して対決する意味がない（かつて苦汁を舐めさせられたハイタカへの復讐、だけでは弱い）。不老不死の術を完成させるのにハイタカの持っている何か（アイテム、情報）が必要で、それを手に入れるため……などのプロット上の要請がない。
終盤、テナー（ヒロイン）をさらった目的に至ってはさらに意味不明。魔法が解けたクモが老いた体を捨てて、若い肉体に乗り移ろうとしているのかと思ったけど、殺したら駄目だろ。
大きな問題（世界の均衡が崩れている）を設定して始まった物語の目的が、途中で小さな問題（主人公アレンの心の闇）にすり替わっている。アレンの救済がテーマなら、始めからアレンの葛藤を物語の出発点にするべき。ハイタカの目的が大きな問題の解決なら、彼の旅は終わっていないことになる。とにかくメチャクチャ。
容易に解決できない問題を設定しておきながら、クライマックスで豪快にうっちゃるのは宮崎駿の得意技だったけど、それが許されるのは当の問題について力任せにぶつかるキャラクター達の葛藤があるから。『もののけ姫』において、アシタカ、サン、エボシ御前らは「自然と人間の共生」についてお互いの主張を激しくぶつけ合う（でも結論は出ない）。対して『ゲド戦記』ではアレンもクモも自分のわがままをたれ流しているだけ。世界の問題にコミットしていない。
あえてよかった点をひとつ。
「大賢人」としてのハイタカの描写。
多分、ハイタカは全てをわかっていた。
アレンの抱えている問題。
クモの実力の程度。
クモに捕らわれていても、アレンが助けに来てくれることを確信していた（ていうか、アレンを成長させるために助けに来るように仕向けた？）。これからどうなるかを全て見通しているから、少しも慌てていない（もしもそうじゃなかったら、ハイタカがただのバカになってしまう）。魔法使いというのは何を考えているのかわからない人種なんだよ。
そういう風に見えるようにハイタカの描写はできていた。
監督を含めてスタッフを責める気にはなれない。この企画にＧＯサインを出した責任者に問題がある。一度もアニメを作ったことが無い人に長編の監督を任せるのは、サッカーボールを蹴ったことがない人をＷ杯のピッチに送り出すようなものだ。
純粋にエンターテインメントとして観る価値は全くない。
以上。